伊藤彦蔵展 美剣士の血とエロティシズム in*弥生美術館

 

竹久夢二美術館に隣接した弥生美術館。いつか行こう思いつつ、何年も経過してしまって、ようやく初めての来館です。展覧会情報で今回の「伊藤彦蔵展」が目に留まり、初見の画家でしたが絵柄に惹かれて行ってきました。

 

竹久夢二美術館とは隣接というか、ほぼくっついているみたいで、一度の入場で両方見られますし、中からそのまま行き来できました。歴史を感じさせる建物もとてもおしゃれです。レンガ造りで、入口の上に石像?

 

 

来る途中にこの辺りが「弥生式土器」の出土ゆかりの地であることが書かれた石碑を見つけまして、だから"弥生"美術館なんだな、と納得したけれど、ここに弥生式土器の展示はありません。

やっぱり聞かれるのか、公式サイトにもわざわざ「土器の展示は無い」という文言が書かれていました。土器が見たい人はすぐ近くのトーハクか科博へ行こうね。

 

今回の「伊藤彦蔵展」は一部を除いてほぼ撮影可でした。遠慮なく沢山撮ってきたので、記事長めです。

 

 

伊藤彦蔵(1904-2004)

大正~昭和、主にペン画で綿密な挿絵などを描いた画家。庶民が身近に楽しめる娯楽だった小説の挿絵や「絵物語」で美剣士などを描き人気を博した。一時は挿絵から離れて日本画に集中するが、戦後にまた復帰。同時代の漫画家達に多大な影響を与え、現在での大人も楽しめる重厚な漫画、アニメ文化の形成に寄与した。

 

しかもこの人、伊藤一刀斎の末裔らくて、ご自身も剣の師範だったそうです。左は実際の写真。初めて聞いた名前でしたが、見られて良かったです。

 

「丸橋忠弥めし捕り」

 

 

 

「天草四郎時貞」「初陣」↑ 「渡辺綱」↓

 

 

細密なペン画。黒い部分もベタ塗はせず、線をひたすらに重ねて表現しています。原画ですが、ホワイトで修正したような跡もまったく見られません。

 

門下生にポーズを取らせて撮った写真を元に描かれたという作品がその写真と共に展示されていました。

 

 

 

「阿修羅天狗」↓

昭和の少年雑誌「冒険活劇文庫」に連載された絵物語。

 

 

 

「絵物語」とは戦後に流行り出したもので、それまでの「小説の挿絵」とは違って、絵の方が主役となった読み物だそうです。これがさらに時代が進み、リアル調の「劇画系漫画」へと繋がっていくらしい。

 

こちらはすべて初公開作品の日本画。

 

 

 

 

こう見ると大衆娯楽向けのイラストレーターというだけでなく、伝統的な日本画技法もかなり勉強しているのが分かる。

 

「アッツ島の山崎部隊長」↓

こちらは従軍体験を踏まえて描かれた屏風絵ですが、残念ながら未完の作品。右から二番目が山崎保代。

 

 


太平洋戦争の激戦地アッツ島、この画題は前に藤田嗣治の戦争画でも観ました。現地に居た伊藤彦蔵は守備隊の玉砕直前に他の島へ移ったため助かりましたが、病気で入院。その間彼は戦死した兵士たちの夢でうなされ続けたそうです。

 

「キリスト像」

これも少し驚いたけれど、「仏教徒もキリスト教徒も信じる心に変わりない」との思いで描かれたものだとか。

 

 

終戦後に戦犯容疑で座間米軍キャンプに収容された伊藤彦蔵ですが、その時に画力を認められ、アメリカ人将校に依頼されて描いたという経緯。

そして、その座間キャンプで知り合った牧師に「アーサー・ガブリエル」という洗礼名を授かり、終戦後に西部劇ものの絵物語を連載した時にはその名前をペンネームとして用いたという、なんだか興味深いエピソードが。

会場内の説明では伊藤彦蔵はキリスト教に帰依したわけではないのに、なぜ洗礼名を授かったのか経緯は不明と書かれていたのですが、幕末維新期の留学生の話とか調べていたわたし的には、もしかしたら一時は本気で改教した可能性もあるのではないかと思える。

 

「荒野の決闘」

洗礼名アーサー・ガブリエルのペンネームで連載した絵物語。

日本の武士ものからがらりと変わって西洋世界を見事に描いている。

 

 

 

「美女と野獣」「ロビンソン・クルーソー」↓ 少年少女世界の名作文学

 

 

 

「平家物語」「ポンペイ最後の日」↑ 少年少女世界の名作文学

異国情緒も日本古典も描きこなす。当時の子供たちが夢中になって読む姿が目に浮かびます。

 

「ニューカールトンの夜」↓ 彦蔵抒情画便箋

一方、こんなおしゃれハイカラ的な作品も。集めたくなる便箋シリーズ。これは女子人気が出てそうだ。

 

 

 

「南総里見八犬伝」↓

でもわたしはやっぱり、こういう剣戟ものが魅力的に見えるかな。

 

 

 

 

 

高畠華宵(1888年-1966年)

同時に観られるので遠慮なく入りました。こちらも撮影可です。

竹久夢二と並び、少年少女向け雑誌や便箋のイラストなどで美人画を描き、人気を博した画家。

 

 

 

儚げな女性画の便箋イラストがたくさん、ですが動物画が好きなわたしとしてはこっちに目が向いてしまう。博物画のような鳥さんたち、かなり特徴をとらえていて可愛いです。

 

竹久夢二美術館

弥生美術館から館内をそのまま行き来できます。

実はあまり好印象を持っていなかった画家。絵は惹かれるけど、本人の人物像がなんかね。でも間近で見るとやっぱり絵は良いですね。